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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)205号 判決

原告

貞本正弘

被告

株式会社太華園関東

主文

一  被告は原告に対し、金一八万六三四七円及びこれに対する平成五年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

一  被告は原告に対し、金一七二万五一九五円及びこれに対する平成五年二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  事故の発生

1 日時 平成五年二月二六日

2 場所 神奈川県大和市鶴間一丁目一二番八号 鶴間ガレージ内

3 態様 被告の従業員である訴外小林禎利(以下、小林という)は、前記2の場所において被告所有のトラツクを運転中、右ガレージ内に駐車してあつた原告所有の普通乗用車に衝突し、同車は破損した。

二  責任原因

本件事故は、小林の前方不注意という過失により惹起されたものである。

小林は、被告の従業員であり、本件事故は被告の事業の執行中に発生したものであるから、被告は民法七一五条により後記損害を賠償する責任を負う。

三  原告は、本件事故により次の損害を被つた。

1 修理費 金九万九九九二円

2 休業損害 金四万円

3 駐車場代 金七万五一五三円

4 代車使用料 金六七万二〇〇〇円

5 経費 金八万八〇五〇円

6 評価損 金四〇万円

7 弁護士費用 金三五万円

四  よつて、原告は被告に対し右損害合計金一七二万五一九五円及びこれに対する事故発生日である平成五年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求の原因に対する認否)

一  請求原因第一項中、発生場所を除くその余の事実を認める。発生場所は、神奈川県大和市鶴間一丁目一二番一〇号である。

二  同第二項は認める。

三  同第三項中、1は認め、2ないし7はいずれも否認する。

(被告の抗弁)

被告は、本件事故による修理費として金九万九九九二円を日産プリンス相模販売株式会社に支払い済みである。

(抗弁に対する認否)

否認する。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因第一項の1、3及び同第二項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨及び原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証、乙第五号証によると、本件事故の発生場所は、神奈川県大和市鶴間一丁目一二番八号鶴間ガレージ内であることが認められる。もつとも、乙第一号証には、本件事故の発生場所として大和市鶴間一丁目一二番一〇号と記載されているが、前掲甲第二号証により認められる駐車場の貸主が当事者となつて作成された契約書の記載の方が信用できるので、乙第一号証の右記載は採用しない。

二  そこで、原告の損害について検討する。

1  修理費について

原告が修理費として金九万九九九二円の損害を被つたことは、当事者間に争いがない。

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一七号証及び証人渡辺喜好の証言によると、日産プリンス相模販売株式会社(以下、日産プリンスという)は、平成五年三月末に修理を完了したこと、同年五月一三日頃、被告側の保険会社から日産プリンスに前記の修理代金九万九九九二円が支払われたことが認められる。

以上の事実によれば、右修理代金を支払い済みであるとの被告の抗弁は理由があるので、修理代金については、これを損害として認めることはできない。

2  休業損害について

原告は、本件事故証明手続及び示談交渉のため延べ二日間会社を欠勤し、金四万円の損害を被つたと主張するが、

右損害は、これを本件事故と相当因果関係のある損害とみることに疑問があるのみならず、仮に相当因果関係が認められるとしても、右休業日数及び損害についてこれを裏付ける会社の証明書もなく、前掲第一七号証のみでは右損害を認めることはできない。

したがつて、休業損害については損害として認めることはできない。

3  駐車場代について

原告は、新車が配車されるまでの間利用していた代車について、従前から賃借りしていた駐車場を利用しないで、原告の母が経営する店の駐車場を利用していた理由として第一に再度代車が被告所有車両によつて破損させられる可能性が存したこと、第二に被告からの嫌がらせを防止するため、第三に駐車場を確保しておくため、第四に被告が駐車場代金を支払うと約束したためであると主張する。

しかしながら、第一の理由は、再度本件類似の事故が起こるという確たる証拠もないのに原告のみがそのように思い込んでいるにすぎず、第二の理由は、被告が嫌がらせをしたのではないかという原告の推測に基づくものにすぎず、第三の理由は、第一、第二の理由が存しない場合には全く理由とならない理由であり、第四の理由は、前掲甲第一七号証以外にこれを認めるに足りる証拠はなく、甲第一七号証には被告側の渡辺喜好が駐車場代を支払うと言明したと記載されているが、証人渡辺喜好はその点について何ら言及していないことからも、同号証のみから第四の理由は認められない。

したがつて、駐車場代については損害として認めることはできない。

4  代車使用料について

前掲甲第一七号証、証人渡辺喜好、同西村寿寿矢の各証言及び原告本人尋問の結果(ただし、原告本人尋問の結果中、後記措信しない部分を除く)によれば、次の事実が認められる。

(1)  原告は、株式会社電通コーテニに勤務し、自動車を使用して広告のロケーシヨン等の業務に従事していたが、その他にも、原告の母が経営するブテイツクの仕入品を搬送するのに自動車を利用していた。

(2)  日産プリンスは、平成五年三月一〇日頃、原告の自動車の修理に着手し、約一週間で修理を完了した。

(3)  日産プリンスは、修理が完了した後、原告に早く自動車を引き取るよう再三連絡し要請したが、原告は被告との本件事故の示談交渉が進展せず事件が解決していないことや、修理が不完全で二次災害のおそれがあること等を理由を引き取ろうとせず、原告は日産プリンスに代車の貸与を依頼してきた。

(4)  一般に、代車の貸与は加害者が保険会社に連絡し、保険会社から修理会社に対する指示に基づきなされる。ところが本件の場合、原告から代車貸与の依頼があつたが、加害者側の保険会社から事故車の修理先である日産プリンスに連絡がなかつたため、原告に代車を貸与すると保険会社の許可がないため、代車費用が原告の負担になるかもしれないと日産プリンスの営業担当の渡辺喜好は考えたが、右渡辺は原告の母と付き合いがあつたことから、原告の要請に応じて渡辺所有の自動車を一日当たりの使用料を金八〇〇〇円と定めて原告に貸与した。

(5)  平成五年五月七日、原告、被告、被告側の保険会社の担当者等が本件事故の解決のため話し合いを行つた。その話し合いにおいて、代車の件については原告も困つていることだから、慰謝料名目というわけにはいかないので、代車名目という形で解決金を出して早期に解決しようという話は出たが、原告が平成五年五月三一日まで事故車を修理工場に預けておくとか、被告が代車使用料を右期日まで支払うとの合意は成立していなかつた。

右認定に反する原告本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らし信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は事故車を営業用として利用していたものであるから、代車の使用は不可欠であると認められる。代車使用の期間については、本件の場合、修理が可能であるから、修理に相当な期間である一週間をもつて代車使用の期間と認めるのが相当である。

そうすると、原告は代車使用料として、一日当たり金八〇〇〇円の一週間分として合計金五万六〇〇〇円の損害を被つたものと認められる。

5  経費について

代車使用の期間中は代車を利用すべきであり、タクシー等を利用しても経費として認めることはできない。また、代車使用の期間経過後は事故車が修理され利用できる状態にあるので、タクシー等を利用したとしても、これを経費として認めることはできない。

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一三号証によれば、原告は保険会社宛てに書面をフアツクスで送つたことにより金三五〇円を支払つたことが認められ、右金員の支払いは経費として原告が損害を被つたものと認められる。

6  評価損について

原告車両は本件事故によつて修理費用金九万九九九二円を要する損害を被つたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第三号証によれば、右修理の内容はフロントバンパー及びヘツドランプ左の脱着、フロントフエンダー左及びエンブレムの交換等であり、車体の本質的構成部分に重大な損傷が生じたものではないから、修理により原状回復がなされ、機能、外観ともに事故前の状態に復したものと認められる。しかし、事故歴ないし修理歴のあることにより商品価値の下落が見込まれることは否定できず、右評価損としては修理費の三割をもつて相当と考える。そうすると、原告は評価損として金二万九九九七円の損害を被つたものと認められる。

7  弁護士費用について

本件の認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮すると、弁護士費用として、金一〇万円が相当である。

三  以上によれば、原告の請求は、被告に対し金一八万六三四七円及びこれに対する平成五年二月二六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

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